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<ペンリレー>

発行日2004/10/10
川原医院  川原 浩
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草津白根山・志賀高原再訪
 
 もう一度、その道を辿って見たいと思っていたが、その思いが漸く四十五年ぶりに実現することが出来た。
 草津白根山から志賀高原を通り長野県の湯田中に抜ける道を再び通ったのである。
 昭和三十四年(一九五九年)十月十一日、私たちは結婚式を挙げた。媒酌は恩師の九嶋勝司教授夫妻にお願いした。当時田沢湖線は開通していないので、仙台から秋田に来るには、東北本線の北上で北上線(当時は横黒線)に乗り換え、横手で奥羽線に再び乗り換えなければならなかった。九嶋先生ご夫妻には大変な御足労を煩わすことになった。
 新婚旅行は、皆が余りやらない方法を採ろうという事で、山歩きを選んだ。それが草津白根山から志賀高原だった。
 リュックサックを背負い登山靴を履いてその日の夜行に乗り上野に向かった。九嶋先生ご夫妻も同じ列車である。九嶋先生ご夫妻は山形駅で下車、山形に一泊、翌朝仙山線の一番列車で仙台に帰えられる予定である。仙台に最も早く帰るには、この方法しかなかった。深夜の山形駅のホームで九嶋先生ご夫妻にお礼を申し上げ、私たちは再び列車の中に入った。
 早朝上野に着き、長野行きの列車に乗り込む。中軽井沢で下車、白根山の麓にある万座温泉行きのバスに乗る。途中浅間山の噴火によって流れ出た莫大な量の溶岩によって出来た「鬼押し出し」を通る。
 約四時間砂利道を走って万座温泉(1555メートル)に着きここで一泊。翌朝おにぎりを作って貰い白根山に向かう。登山道の勾配は、かなりきつく何回も休憩をとりながら登り約一時間半で頂上に着いた。
 草津白根山は活火山で、白根山(2140メートル〉、逢ノ山(2110メートル)、本白根山(2165メートル)などの峰をあわせて草津白根山と呼ばれている。草津の名を冠しているのは、日光白根山と混同しないためである。
 頂上付近は砂礫で草木は一本も見られず荒涼としている。大きな火口が三つありエメラルドグリーンの湯をたたえている。火口壁の尾根を歩いて進む。その一部は幅二〇センチくらいの狭さである。一歩間違えば熱湯をたたえた火口に落ちる危険がある。
 そこを通り過ぎると、後は起伏にとみ木々の茂る地蔵岳や池ノ塔山を縦走するだけである。周囲は遮るもののない360度の展望が開ける。北アルプスから浅間山、北信濃の山々が見え実に雄大な景色である。登山道は渋峠(2172メートル)を境にして後は少しずつ下る。横手山(2305メートル)の中腹を横切る雪崩で有名な「横ッツリ」を通り「熊の湯」(1650メートル)に着く。午後4時半である。午前7時半に万座温泉を出発してから約9時間である。「熊の湯」の周辺を志賀高原と呼ぶ。ここまでバスが入っている。ここで「湯田中」行きのバスに乗り込む。周囲には多くの沼や池があり、ハイキングコースも沢山あるが、今回はバスで通過するだけである。バスで三時間半、午後八時過ぎに「湯田中」に着く。
 湯田中は温泉の町である。標高600メートルのところにある。江戸時代から有名で俳人小林一茶ゆかりの地である。
 我々が予約した宿は、部屋が一戸建てになっていて、そのような建物が十戸位ある。母屋から庭伝えに自分の部屋(家)に行くのである。大浴場は母屋の方にある。ここで山歩きの疲れを癒す。
 翌朝「湯田中」を電車で出発長野市に向かう。
 以上が、新婚旅行であった。

 それから四十五年経った二〇〇四年五月二日、三日と七月十八日、十九日の二回の連休を利用して白根山・志賀高原への旅行をした。今回は二人の娘が同行してくれた。
 四十五年前と違うのは、登山道が一部火口壁の道を避けすべて舗装道路(国道292号線)になり路線バスが通っている事である。そのため私たちは座ったまま旅する事ができた。この国道は日本一高い所(2000メートル代)を通っている事で有名である。
 五月二日、私たちは、四十五年前と同じ様に、軽井沢からバスで万座温泉を経て白根山へ登り、「白根火口」停留所でバスを乗り継ぎ「熊の湯」を通って「湯田中」へ向かった。
 この時は、バスの乗り継ぎの都合で白根山頂へ登れなかったので、七月十八日、今度は草津側から白根山に向かい山頂に登る事が出来た。
 草津白根山は、近年時々小規模な爆発や蒸気の噴出があるので、山頂への登山道にはコンクリート製の避難所が設けられていた。
 また、大火口の周囲500メートル以内は立ち入り禁止で、私たちが歩いた火口壁の尾根は足を踏み入れる事が出来なかったが、エメラルドグリーンの湯は四十五年前と同じようにたたえられていた。山頂にはバス停留所から登山道を約十分登ると着く。山頂は風速二十メートル以上の風が吹いていて体が飛ばされそうであった。
 四十五年前は幸いな事に突風はなかったので、狭く長い火口壁の尾根を歩く事が出来たのであった。
 万座温泉から白根山へ一時間半かかって登った道を今回バスで十五分で登り、白根山から渋峠を通り横手山を横切り「熊の湯」まで七時間半かかって歩いた道を、路線バスで三十分で着いた。
 途中の景観は、記憶にある四十五年前と同じであった。よくぞここを歩いたものだと感嘆する思いが頭をよぎった。


 
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